できる男
信頼していた
ディレクターが息をひきとった。
お見舞いに行く日だった。
彼のお母さんが寄り添って
おられ、
「あんた、清水さんが今日来るの
知っとったけん、
さっき息をひきとったんじゃろ?」
と、彼にやさしく語りかけた。
本当にそうなんじゃないかと
思うくらいの笑顔で、
心の中でいろいろツッコんだ。
「ほら、口元が
すぐ笑ってしまうんよ」。
「ホントですね。」
直しても直しても
口角が上がるだなんて
本当におだやかすぎる。
羨ましいな。
私は対面しながら
そうだ、あんたの顔も
大好きだったんだよな~、と
思った。
お地蔵さんみたいな顔で
今は本当に仏さんだ。
かわいいのう。
大した人格で、
我慢強い一面があった。
誰よりも番組を
盛り上げながらも冷静で、
この人のために
面白くしたい!と
思わせるような
魅力がいつもあった。
ちょっと皮肉をいう時は
小さな声になるところも
私に似ていた。
夕方から
バラエティの収録があって、
(いったい自分は
大丈夫かいな)、と
ちょっと思った。
けれど、数時間後、
すっかり彼の事は
忘れて笑っていた。
前もこんなことがあった。
自分は案外忘れるんだ、と
思ったら、
父親の亡くなった日であった。
と、話しかければ
「いやいやいや、そんなん
こっちも重いですから。
さ、仕事やってください。」
と、いいそうな顔が
浮かんだ。
私はいつもすぐに忘れる。
彼の命日も忘れるかな、と思い、
スケジュール帳に
書きこもうと思ったら、
たまたま夫の誕生日と
重なっていた。
これでずっと忘れられないわ。
最後まで
できる男だねえ~。