コンサートでのカクニン

コンサートを観に行くとき、

会場に入る前は、まだ

「個人」としてのイシキが高い。

どっかで武装している。


だけど、客席の灯りが消えて

暗くなって、だんだん

心がほどけて行くうちに

いつのまにか、

自分の顔がなくなってく。

「名前」もすーっと消えて行く。

誰の視線も感じなくなり、

そのうちみんなで

ゼロになって行くというか、

空(カラ)みたいになる。

気持ちや感情がひとつに

ふわ~っとふくらんで

溶け込んで行く。

そのまま、身体を預けていられる。

そうなると、自分が

どこの誰、というのがなくなる。

そういう瞬間がありますね。


泣いたり笑ったりは

いつもよりしてるのに、

顔がいつのまにか消えて

なくなっているカンジ。

かといって、

自分の存在がなくなる、

というわけじゃないのに。


そして、一歩明るいロビーに出ると

とつぜん、自分の顔が

名前が意識がもどってくる。

急展開だ。


こっちがほんとうなんだよね、

と、頭を冷やしてカクニン。

私はこういう名前で、

こういう感じの人でしたね。

などと、カクニン。

そして、さっきまでの自分は

誰だったかと一晩中

カクニンするのでした。

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